建物の延床面積あたりの壁及び柱の断面積の割合を算定し、建物の耐震性を判断する。一般的に、壁の多い建物に適した簡便な方法である。壁の少ない建物に用いると建物の耐震性が過小評価される傾向にある。
耐震診断について
柱及び壁の鉛直部材の強度を算定し、それらの破壊形式(せん断・曲げ等)及び靭性能(破壊形式により決定する値)から建物の耐震性を判断する。この時、梁の強度は充分大きいと仮定し、また、基礎には浮き上がりが発生しないとして、建物の耐震性を算定する。第1次診断法より詳細な検討法であるが、梁の強度が小さい場合や地震時の引抜き力により基礎に浮き上がりが生じるような建物では耐震性が過大評価される傾向にあるが、一般的に使用されている診断法である。
梁の強度及び基礎の浮き上がりを考慮し、柱と梁により形成されているフレームの降伏形を求め、建物の耐震性を判断する。建物の特性が2次次診断法より更に詳細になる。
建物自体の耐震性を判断する指標で、上記診断法により算定する。
建物の耐震安全性を判定する指標で、日本建築防災協会「耐震震診断基準」では、第1次診断法により診断した場合は0.8、第2次・第3次診断法により診断した場合には0.6を下限値としている。
Is≥Iso
通常想定される地震動に対しては、倒壊などの危険性は低いと判定される。
通常想定される地震動に対しては、倒壊などの危険性は低いと判定できない。(耐震補強の必要性)
Is=Eo×SD×T として算定する。
Eo:
保有性能基本指標といい、柱及び壁の強度(C)と靭性(ねばり:F)との積により求める。
SD:
形状指標といい、建物の平面的な形や断面形状により、建物の耐震性能に及ぼす影響を考慮しEoを補正する。
具体例としては、下図のような場合に形状指標(SD値)が小さくなる。それにより保有性能基本指標(Eo)も小さくなる。
(左)平面的に整形(長方形等)でない(右)壁が片側に偏在している
T:
経年指標といい、建物に生じているひび割れ・変形及び老朽化により、建物の耐震性能に及ぼす影響を考慮しEoを補正する。
したがって、経年指標は現地調査(ひび割れ調査・不同沈下測定)及びコンクリートの試験(中性化試験)により算定する。
調査の結果、ひび割れが多い場・建物に不同沈下が生じている場合・コンクリートの中性化(酸性化)による鉄筋の錆がある場合には、経年指標(T値)が小さくなる。それにより、保有性能基本指標(Eo)も小さくなる。
Is
構造耐震指標(Is=Eo×SD×T)の算定するにあたって、Eo値については、確認申請書等の設計図書、及び竣工図書により、机上の算定は可能ではあるが、建物の現状の構造部材の断面、スパン、階高等寸法的な確認及び、現状のコンクリート強度の確認が必要である。
また、T値についても、A-2で記する通り、現地で確認調査が必要である。
建物の現状を把握し、建物の損傷の程度を推し測る基礎資料を得る為に行う。
建物の増改築・改修・用途変更・被災等の履歴に関して、建物管理者等が保管している資料及び事情聴取等により調査する。また、建物に生じているひび割れ、腐食の状況・柱の傾斜・不同沈下等の程度を現地で調査する。(T値算定に必要)
1)履歴についての調査
建物についての建築年次・増改築・改修・用途変更・被災等について調査する。
2)外観についての調査
建物に生じているひび割れ・腐食の状況・柱の傾斜・不同沈下等の程度・雨漏り並びに建物の周辺環境等について調査する。
1)調査単位
調査は構造上一体とみなせる架構体を調査単位とする。建物がエキスパンション等で構造的に明確に分離されているものは、それぞれ別のブロックとして取り扱う。
外観についての調査の結果、構造耐力上懸念される現象について発生部位及び箇所が判るよう写真撮影を行い、その状況に応じ、Is≥Isoと判定された場合でも部分的補強を提案する。(進行性が認められた場合等)
建物の現状を把握し、設計図書と構造部材を照合し、施工精度を把握するために調査する。(Eo値算定に必要)
柱、梁、壁等の構造部材の形状および寸法の実測を行う。
※断面欠損の調査は必要。(コンクリート欠損、鉄骨発錆等)
調査単位
調査は構造上一体とみなせる架構体を調査単位とする。建物がエキスパンション等で構造的に明確に分離されているものは、それぞれ別のブロックとして取り扱う。
設計図書と著しく相違している場合は、図面の修正及び相違している部材により建物の耐震診断を行うものとする。
建物本体の現状のコンクリート強度を確認するために調査する。(Eo値算定に必要)
建物本体のコンクリート部材から、コア抜きで採取した試験体の圧縮強度試験を、公的機関で行う
1)調査単位
コアの採取箇所は施設管理者の了解のもとに各階3ヶ所とする。なお、建物がエキスパンションジョイント等で構造的に明確に分離されているものは、それぞれ別のブロックとして取り扱う。
2)採取方法
先ず仕上が有る場合は、支障の無い範囲まで一時的に撤去する。
次にRCレーダー、プロフォメーター等を用いて鉄筋位置を調べ、出来るだけ鉄筋の切断を避けるようにコア採取位置を決定します。その後、構造体からコンクリートコア採取機(電動式ダイヤモンドドリル)を用いて、コア(直径10cm)を採取する。
コアの長さは直径の2倍程度とする。2倍未満の場合は、長さによる強度の補正を行う。
採取したコアの運搬については、振動等による破損が生じないように注意する。
3)コアの採取部分の補修
コアの採取部分は、無収縮モルタルを充填する。
鉄筋を万一切断した場合は、構造上問題がないように補修する。また、配線等を切断した場合は、主任技術者の指示により迅速に補修する。
コアの無収縮モルタル充填後、一定の乾燥期間を経て、仕上を、既存に準じ補修する。(同一の仕上材量が入手困難な場合、同等品にて補修する。)
公的機関で行った圧縮強度試験の結果が、設計強度未満の場合は、その強度により建物の耐震診断を行う。
建物本体の現状のコンクリートの中性化の進行状況を確認するために調査する。(T値算定に必要)
建物本体のコンクリート部材から、コア抜きで採取した試験体の中性化深さを調査する。
原則として、前項コンクリート強度試験B-4-3の要領で採取した試験体を用いるが、必要に応じ別途採取する。
1)調査単位
コアの採取箇所は施設管理者の了解のもとに各階3ヶ所とする。なお、建物がエキスパンションジョイント等で構造的に明確に分離されているものは、それぞれ別のブロックとして取り扱う。
2)採取方法(必要に応じ別途採取する分)
前項コンクリート強度試験B-4-3の要領に順ずる。
コンクリートの中性化の進行度と建築年次との関係及びB-2履歴外観調査により建物の老朽の状態を推定し、構造強度の調査に必要な経年指標(T値)をもとめる。
建物本体の現状の鉄骨の溶接部状況確認するために調査する。(T値算定に必要)
建物本体の鉄骨溶接部を、超音波探傷測定により、溶接面の傷の有無原状を調査する。
超音波探傷測定は各ブロック3ヶ所とする。なお、ブロック分けについては、建物の規模、エキスパンションジョイント等を考慮する。
鉄骨の溶接面の発傷等の進行度と建築年次との関係及びB-2履歴外観調査により建物の老朽の状態を推定し、構造強度の調査に必要な経年指標(T値)をもとめる。
建物の付属工作物の状況や建築設備の取付状況等の耐震性を調査する。
屋上看板、屋上手摺、鉄骨階段等の屋外工作物及び外装材、外装装飾材
建物に設置されている電気、ガス、給水、排水、換気、暖房、冷房、消化、排煙、煙突昇降機、避雷針等の機器及び配管・配線等
構造部材、構成部材、支持部分、取付部分の損傷、ひび割れ、腐食等を外観調査し、地震時の剥落や落下、転倒、移動について調査する。
耐震性能及び落下の可能性の有無を耐震診断基準により判定し、その状況を写真撮影し、報告書に添付する。
補強の目的 | 補強の種類 | 施工条件 | COST | 特徴 | |
---|---|---|---|---|---|
・建物がつぶれないように改善 ・建物が倒れないように改善 |
基礎の補強 | 杭の増設 | 厳しい | 甚大 | 敷地等充分な余裕が無い場合は、現実性に乏しい 基礎に構造的な余裕が少ない場合、地上部の耐震補強は、軽量仕様が望ましい |
地中梁の増設 | 厳しい | 甚大 | |||
耐圧盤の増設 | 厳しい | 大 | |||
柱の補強 | 柱のコンクリート巻き | 緩やか | 小 | 耐火性に優れている、柱が太くなり、使い勝手が悪くなる、重量が重い | |
柱の鉄板巻き | 普通 | 大 | 粘り強くなる、強度が上がる、重量は普通 | ||
柱の炭素繊維巻き | 緩やか | 中 | 強度が上がる、軽量である | ||
柱のアラミド繊維巻き | 緩やか | 中 | 強度が上がる、軽量である | ||
柱のSRF樹脂巻き | 緩やか | 小 | 粘り強くなる、軽量である | ||
建物が倒れないように改善 | スパン補強 | 格子型ブロックの新設 | 普通 | 大 | 見栄えがする、重量は普通 |
鉄骨ブレースの新設 | 普通 | 中 | 軽量である | ||
耐震壁の新設 | 緩やか | 小 | 重量が重い | ||
梁の鉄板補強 | 普通 | 中 | 軽量である | ||
・構造バランスの向上 ・局部的な破壊を避けるための改善 |
構造スリットの新設 | 緩やか | 小 | 構造的にバランスが悪い場合、有効性大 |